福岡地方裁判所 昭和60年(ワ)3012号 判決 1993年9月21日
昭和六〇年(ワ)第二一七六号事件原告を「一事件原告」という。
同第三〇一二号事件原告を「二事件原告」という。
昭和六三年(ワ)第一四五九号事件原告を「三事件原告」という。
一事件原告
上野常雄
外七名
二事件原告
井下高
外一九名
三事件原告
長尾トシ子
外一名
右原告ら訴訟代理人弁護士
小泉幸雄
同
上田国広
同
永尾廣久
同
林田賢一
同
村井正昭
同
松岡肇
同
名和田茂生
同
安部尚志
同
渡邊和也
同
原田直子
同
三溝直喜
同
橋本千尋
同
井手豊継
同
田中久敏
同
山本一行
同
幸田雅弘
同
藤尾順司
同(一事件のみ)
小澤清實
一、二事件被告
熊本洋明
外二名
二事件被告
富安竜郎
外七名
二、三事件被告
島田こと
尾崎洋子
二事件被告
久芳正祥
右被告久芳訴訟代理人弁護士
松本成一
二事件被告
宮本茂美
三事件被告
河野恭信
主文
一 別紙二「請求・認容金額一覧表」の「被告」欄記載の各被告らは、各自、同被告らに対応する同一覧表の「原告」欄記載の各原告に対し、同一覧表の各原告に対応する「請求額・認容額」欄記載の各金員及びこれに対する平成五年三月二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を事払え。
二 訴訟費用は、被告らの負担とする。
三 この判決は、主文第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一申立
主文第一、二項同旨並びに仮執行の宣言
第二事案の概要等
一事案の概要
本件は、豊田商事株式会社(以下「豊田商事」という。)との間で金地金の売買契約「純金ファミリー契約」を締結していたところ、同商事の倒産により売買代金名下に交付していた金員の返還を受けることができなくなった原告らが同商事福岡支店の元支店長や営業担当等の従業員らに対し、いずれも詐欺的商法であることを認識しながら同契約の勧誘等をしたとして、不法行為を理由に損害賠償の支払を請求した事件である。
二争点
1 豊田商事の純金ファミリー契約商法の違法性の有無(原告ら主張のように詐欺的なものであるか否か。)
2 被告らの責任の有無(原告ら主張のように被告らが違法性を認識しながら勧誘等をしたか否か。被告らの一部は、違法であるとの認識はなかったなどと主張して責任を否定している。)
第三当裁判所の判断
一豊田商事の破産に至る経過と純金ファミリー契約商法について
1 <書証番号略>と証人山田久男、同三木俊博の各証言、和解成立前の被告川原悟、同大町正敏、同鍋島昿紀、同池裕之、同松沢直俊各本人尋問の結果、取下げ終了前の被告竹田隆則本人尋問の結果、分離前の被告山下保承、被告久芳正祥、原告楠原隆子各本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 豊田商事の破産までの経過等
(1) 豊田商事は、昭和五六年四月二二日に大阪市北区梅田<番地略>を本店として設立された会社である。設立者の永野一男は、昭和五三年ころから主に中京東海地区において金地金の売買仲介又はその予約取引(先物取引)等を業とする豊田商事と同名の会社を経営していたが、金地金の高騰により右予約取引の清算に応じ切れなくなったことなどのため、昭和五四年一二月ころ、負債を免れる目的で、旧会社を閉鎖するとともに、同社の商法のほか、従業員、店舗まで引き継ぐ形で大阪支店に営業の中心を移し、新豊田商事を発足させた。旧会社の右商法は利益が薄く、またその後、法令改正によりブラックマーケットにおける金地金の売買が禁止されるに至ったため、昭和五六年ころからは金地金を顧客に購入させるとともに、右購入した顧客から金地金を豊田商事に一年ないし五年の間預けさせる形態の純金ファミリー契約証券の取引を始め、同取引は、その後同社が昭和六〇年に倒産するまでの中心的な営業活動となっていた。
(2) 豊田商事は、昭和五九年四月に設立された訴外銀河計画株式会社(以下「銀河計画」という。)を通じて約一二〇社の関連会社と人的、資金的に密接に関連した豊田商事グループを形成し、海外等にまで営業活動を広げ、最盛期には社員七五〇〇人、グループ全体の社員約一万数千名に達する程であった。一般に、会社とは営利を目的とし、企業活動を通じて収益を獲得してこれを株主に分配する組織であるが、豊田商事は、資本金二億五〇〇〇万円の株式会社としての法人登記をしているものの採算、収益を目的とした事業活動についてはこれを営んでいると評価できるものはなく、その実体は故永野一男を中心とする詐欺的商法の集団で、本件純金ファミリー契約による収益の分配組織といえるものであった。豊田商事では、詐欺的商法の実行に寄与した功績によって会社幹部外交員などに報酬、賞与等の名目で法外な金員が分配され、この直接分配された金員総額は六〇〇億円にのぼり、店舗賃借料等の経費を加えると、約八六〇億円にもなり、総額二〇二〇億円に上る顧客からの導入金額から顧客に返還された金員を差し引いた残額(一四七〇億円)のうちの約六〇パーセントが給料等の一般経費に使われた。
(3) 豊田商事では、設立後、一期といえども利益を計上したことはなかったが、顧客に対し、銀河計画等を通じて、ゴルフやマリーン関係などのレジャー産業を中心に多数の事業を経営しているように見せかけるために、また、償還の不必要なレジャー会員券の販売に切り替えるために、採算を無視した投資が続けられた。その総額は五〇〇億円にのぼるが、これらは豊田商事グループの人件費等に費消されたほか、ずさんな投資のために各事業は挫折する運命にあったものであり、投資先関連会社からは年一二パーセントの利益を収受していたにすぎず、事業採算として成り立つものではなく、また、その後、投資額を回収することはほとんど不能となったものである。なお、一一〇億円から一二〇億円が商品取引相場の投機資金に費消されたと推定されている。
(4) 顧客は、純金の現物があり、償還が保証されていると考えるから純金ファミリー契約を締結するのであり、レジャー会員券では償還が確実でないことは明らかであり、豊田商事の経営が行き詰まることは時間の問題であった。豊田商事グループの最高幹部らは、昭和六〇年二月一日豊田商事を退社し、銀河計画へと移り、同年六月一〇日豊田商事は、純金ファミリー契約証券の販売を停止するに至り、債権者からの申立により同年七月一日破産宣告がされた。
豊田商事の破産後の破産財団を構成する財産は極めて少なく、昭和六〇年七月一日豊田商事の破産宣告の同時点で債権者数は二万九〇〇〇人金額は一一〇三億円、顧客から取得したのは前記のとおり二〇二〇億円であった。
(二) 純金ファミリー契約の内容と欺瞞性について
純金ファミリー契約は、豊田商事から金地金を購入した顧客がそのまま金地金を豊田商事に預託する形態をとるものであり、豊田商事は賃借料として一か年当たり一〇ないし一五パーセント(一年もの一〇パーセント、五年もの七五パーセント、ただし二年ものは一七パーセント、三年ものは二二パーセント、なお、当初は一ないし三年の賃借期間のものであったが昭和五八年七月ころから五年ものの純金ファミリー契約証券の売出しを始めたものである。)もの高額の金員を支払い(これは実質は金地金の購入代金の運用利子であり、しかも初年度の賃借料は契約時に前払いされることになっていた。)、期間満了時に金地金を顧客に返還することを約し、その証拠として純金ファミリー契約証券を顧客に交付するものであった。しかし、実際には豊田商事は、純金ファミリー契約に見合う金地金は購入しておらず、売却した金地金自体に契約書にナンバー等の特定の記載はなく、各支店が常時保管しているのは、見本としての金地金数キログラムのみであった。
顧客は、書面上金地金を購入したといっても、現物は期間経過後でないと取得できず、契約時には純金ファミリー契約証券を受け取るのみであり、右期間経過後に金地金の現物を取得できるか否かはすべて豊田商事の資力にかかるのであって、顧客らが考えていたような少なくとも金地金が確保できるというような安定した取引ではなかった。顧客は、金地金が保管されていると考えて安全な取引であるとの錯覚に陥っており、豊田商事側が「金地金は現在現実には保有していませんが、受領金を有利に運用して、期限が来たら金地金を購入して返還します。」と真実を告げていたなら、同契約を締結することはなかったと考えられるものである。
(三) 豊田商事のセールス手法について
(1) 純金ファミリー契約獲得のために、営業員には厳しいノルマが課される一方、高額の固定給、高率の歩合給や管理職手当てが支給され、従業員の営業成績を上げるように工夫がされていた。昇給、昇任等は、売上額によっており、順次、社員、社員ヘッド、主任、係長、課長、次長、部長、支店長と昇格することになっていた。社内では、同一の手法により社員教育がされており、入社した者は、一週間ないし一〇日間程度、豊田商事の業務内容、職制、金についての知識、金地金の三大利点、顧客勧誘の技術、勧誘の実演、他の金融機関との比較等についての研修を受け、見習社員となっていた。見習社員の売上げが三〇〇万円を超えると社員になり、固定給もつくようになった。社員の給料は、固定給として日給一万円(月額二五万円)のほか、ノルマの四〇〇万円を超えると、超えた分の六パーセントの、途中からは一二パーセントないし一五パーセントもの高額の歩合給が支給されることになっていた。さらに、昭和五八年末ころからは、契約した金の重量に応じ、五〇〇グラムに五万円、一キログラムに対して一〇万円の賞金が出されることもあった。また、補佐的な仕事をした場合にも三〇〇〇万円を超えた分の二パーセントが支給された。
(2) 純金ファミリー契約の勧誘については、豊田商事のテレフォンレディ(電話で営業社員の訪問先を見付けるパート女性社員)がまず顧客に無差別に電話し、興味を示す顧客をチェックし、面談用紙に家族関係等を記入することになっていた。顧客として第一目標とされるのは資産を有する老人家庭の主婦等であり、最初は、金地金の現物を売る旨の話をして確実な利殖の話であるとの安心感を植え付けて話の糸口とし、話の進展状況によってはさらに預貯金等の有無、額も聞き出し、営業部員の参考事項として記入された。
営業部員は、顧客の信用を得るために顧客宅を訪れる前には電話し、訪問してからは世間話をするなどの警戒心を解く技術を修得しており、勧誘に当たっては、長時間居座り(社内では「五時間トーク」と言われていた。)、最初は金地金の話等をせずに警戒心を解くことに努め、相手方との間に感情的交流が生じるや、支店の豪華な事務所に車で連れていき、ビデオで本社の立派な建物を見せて信用させ、その後に課長らが応対して説明をするなど、顧客の心理をつくべく細かな配慮のもとに勧誘がされた。現物購入の意思がある者を純金ファミリー契約に切り替えさせるためには会社を信用させることが第一であり、そのために各支店は一等地のビルにあり、豪華な調度類が備えてあった。
(3) 顧客らが営業部員の言を信用するようになると、利子が銀行よりも高い旨及び利子相当の賃料が前払いされる旨を述べて欲をそそるとともに、現物である旨を述べて安心させた。社員教育は徹底しており、一律に「①純金は現金と同じであり、いつでもどこでもその日の相場により現金に替えることができる。②純金には税金がかからない。③金の値上がりは大きく平均して年に二〇パーセント値上がりするから他の利殖より有利である。」との金地金の三大利点を強調することになっていた。顧客が金地金現物の購入を決めると、現物を保管することの危険を説き、豊田商事に預ければ、五年間で毎年一五パーセントの利息がつく旨を述べて純金ファミリー契約を勧誘して締結させ、結局は金地金の現物を交付せずに済むようにしていた。
2 純金ファミリー契約の違法性について
豊田商事の商法と純金ファミリー契約の実体は、右1で認定のとおりであって、同契約では毎年一五パーセント、五年で合計七五パーセントの高額の賃料を顧客に支払う上、営業員に対しては高額の固定、歩合給が支払われ、経費率は極めて高く、企業としての採算をとるにはこれを上回る収益を上げねばならず、それが殆ど不可能であることは明らかであり、その商法が行き詰まることは必至であったものである。一方、顧客らは、金地金の購入であれば、最低の保証、償還があると考えて契約締結に至っていたものであり、その償還の裏付けは豊田商事の経営の実体にかかるものであることに考えが及ばなかったものである。そして、豊田商事の営業部員らは、入社後の研修や顧客の勧誘、その応対等において純金ファミリー契約が金地金の現物の裏付けのないものであり、将来、金地金を償還することが著しく困難ないし不可能であることを認識し、或いは認識し得たのに、欺瞞的な豊田商事のセールス商法に従って金地金の安全性のみを強調し、執拗に勧誘をして純金ファミリー契約を締結させていたのであり、同契約を勧誘して締結させること自体が違法であったと認められる。
二被告らの地位と勧誘行為等について
前掲一、1の各証拠と<書証番号略>を総合すると、次の事実が認められる。
1 被告らの地位等
豊田商事は、福岡市に九州支社を有し、同社支社長が管内を統括しており、その下部組織として福岡支店が設けられていた。九州支社及び福岡支店は福岡市博多区冷泉町のビルの五階から八階までを占めており、同支店には総務部、管理部、営業部、業務部の四部が設けられ、約一五〇名が在籍していた営業部は、部長、次長各一名、課長二名のほか、各課に係長四名が配置され合計三〇名から五〇名の外交担当の営業部員や約六〇名のテレフォンレディがおり、純金ファミリー契約等の勧誘、締結の業務に従事していた。
被告熊本は、係長を勤め、昭和五九年九月頃、課長に昇進し、その後、さらに次長に昇進したが、同被告が昭和五九年二月から昭和六〇年五月までの間に受領した報酬の平均月額は一六八万円であり、被告安達直實は係長、課長等として勤めていたが、同被告が昭和五九年二月から昭和六〇年五月までの間に受領した報酬の平均月額は一九九万円の高額であった。
その余の被告らは、いずれも本件原告らについて購入を勧誘した担当営業部員らであるが、いずれも豊田商事に在籍中、約四五万円を下らない平均月額報酬を受領していた。
なお、訴外山下保承は、昭和五七年一一月頃入社して昇進し、倒産時には同支店の営業部長であり、営業部員の統括や営業状況の把握の仕事をし、また担当営業員が原告ら顧客と純金ファミリー契約を締結するについての個々の助言をし、顧客らから苦情等があるときには、同支社を代表して対処していたが、同人が昭和五九年二月から昭和六〇年五月までの間に受領した固定給・歩合給等の報酬を平均月額にすると二五一万円であった。また、訴外宮本和仁は、昭和五八年七月当時は課長で、その後支店長にまで昇進した者であるが、同人が昭和五九年中に受領した報酬の平均月額は五八一万円もの高額であった。
また、同支店の月間の売上げのノルマは、二億四〇〇〇万円程度であり、それが達成されたときは支店長に歩合給として超える分の一パーセントが支給され、以下、部長は0.6パーセントとなるなど低減していくことになっており、また、営業部員には別に日割りのノルマが課せられており、それが達成されたときは賞金が出るようになっていたので、各営業部員はノルマを達成し、昇進を目指して無理をせざるを得なかった。
2 福岡支店における被告らの勧誘行為について
(一) 福岡支店は、北部九州の営業関係を担当しており(なお、小倉支店が昭和五九年に設置された。)、同支店では、テレフォンレディの電話聴取による面談表に基づき、目標となる顧客を選別して決め、これを課長が各営業部員に交付して勧誘を指示していた。勧誘は、顧客の年齢や家族状況、資産額等に応じて段階的に進められることになっており、原告らの多くが高齢者であるのも、話相手を求める境遇、不安定な心理状況にあることを考慮して意図的に目標にされたものであった。また、貯金等でマル優の特典が受けられなくなっている者には、金地金の有利性を説き、或いはマル優制度の廃止をほのめかすなど、顧客の具体的な事情に応じた勧誘がされた。営業部員の中には、顧客の関心を誘うために、結婚しているのに、独身ということで通し、或いは顧客の息子の結婚相手を捜すなどの関心を誘うなどの工夫をする者もいた。
顧客勧誘の常套手段は、女性営業部員が一人で顧客方に説明に赴き、顧客が関心を持ったところで男性営業部員が赴いて同席し、顧客を支店に車で同道し、支店ビルや多数の従業員らの営業状況を見せ、支店長らの幹部が応対し、金地金現物を抱かせた写真を撮るなどして安心させ、とりあえず契約締結の承諾を取り付け、金地金の現物を受領して帰宅するとの気持ちになっていた顧客に対し、さらに現物を所持していることの危険性を説き、結局は純金ファミリー契約を締結させるというものであり、顧客を同支店にまで同道させれば、契約は成立したも同然とされ、営業部員らは、支社応接室等での顧客の説得状況をいつも目にしており、営業部員らによる連携した工作も勧誘の一方法とされていた。また、既に契約済みの顧客については、更に別の営業部員が赴いてその家庭の個人的な事情を持ち出し、同情心を誘って契約締結に持ち込むのも顧客勧誘の一方策とされていた。
(二) 営業員が顧客と契約しても、金地金の現物を渡した場合には、歩合給はわずかであり、純金ファミリー契約を締結しても二か月以内に解約がされたときは、歩合給は返還されることになっていたので、営業部員は、解約の申出のあるときは、これをやめるように説得し、或いは純金ファミリー契約を締結するように説得せざるを得なかった。もともと、福岡支店には金地金は、見本として四キログラム程度が置いてあるにすぎず、顧客が金地金の現物を持ち帰ることは予定されていず、その日のノルマを達成できなかったときなど、その係りの営業部員が正座をして反省させられることもあった。
顧客から純金ファミリー契約の問題点を指摘され、営業部員の中には会社で投資をしているとの答えをする者もあったが、稀であり、同社営業部員において豊田商事が採算の合う事業をしているか否かを真剣に考えている者はいなかった。
(三) 昭和五六年末ころから、金地金取引について現物を渡さない商法の違法性についての新聞報道がされ、昭和五七年にも同様の報道がされ、昭和五八年八月ころからは豊田商事名を明らかにし、純金ファミリー契約について「豊田商事が年三〇パーセント以上の運用利益を上げることは不可能であること、預かり証券が満期になっても金地金を顧客に返還していないこと、豊田商事が金地金現物を購入していないこと」などの具体的事実を指摘してその違法性を指摘する新聞の全国版の報道があいつぐようになった。また、昭和五八年には、福岡市内でも純金ファミリー契約を締結した顧客の弁護士らが豊田商事に対し、公開質問状をもって「現在保管してある純金の総量等」の同契約商法の実体を明らかにするよう求め、これが新聞報道されるなどし、さらに、昭和五九年には純金ファミリー契約が違法であるとして秋田地方裁判所に損害賠償請求の訴訟が提起され、福岡県内でも同様に新聞で豊田商事の商法批判の記事が掲載されるなどしていたので、福岡支店内でも顧客への対応等が検討されていた。
福岡支店では、昭和六〇年の初めころから純金ファミリー契約証券のほかにゴルフの会員券の販売がされ、営業部員らは、豊田商事の経営が行き詰まっていることを知っており、同年四月から純金ファミリー契約締結の顧客に対する賃料の支払はできない状況であったが、なおも顧客に県内のゴルフクラブの計画や県外のマリーナ計画等がある旨を説明し、さも豊田商事が償還能力の十分な会社である風を装って純金ファミリー契約を勧誘し、締結していた。
(四) 豊田商事の破産宣告がされた後の福岡支店関係で届出がされた債権者の数は、五六〇名余にのぼり、その債権総額は二三億円余であった。
原告らは、破産債権の届け出をしているが、殆どが高齢者であり、四〇代、五〇代の者はわずかである。
三被告らの責任について
1 以上一、二の豊田商事の実体や純金ファミリー契約商法の違法性、福岡支店における勧誘の状況等を総合すると、被告らは、同支店の営業部員として原告ら顧客の契約締結を勧誘するについて、純金ファミリー契約が金地金の現物の裏付けのないもので、将来、金地金を償還することが著しく困難ないし不可能で、原告らに損害を及ぼす危険性が高いことを十分認識していたと推認することができ、そうでないとしても、通常の注意を払えば、容易にこのことを認識し得たということができる。豊田商事は、被告らの所属する会社であり、いかなる事業をして収益を上げているかは、最大の関心事のはずであり、顧客から受領をした金員が他への投資と考えるなら、そのような危険を顧客に負わせることの是非を認識すべきものである。豊田商事の経営状況の悪化に伴い、逆に被告ら営業部員らの固定給は三五万円に、歩合給も一五パーセントに上がっており、到底原告らから受領の金員が返還できない状況にあることを知っていたといわざるをえないところである。
しかるに、被告らは、前記のような豊田商事のセールス手法に従って、金取引の知識のない顧客である原告らに対し、金地金の購入を勧誘し、最終的には純金ファミリー契約を締結させ、預金等からの引き出しをさせて出捐させ、そのまま損害を被るに至らせたのであるから民法七〇九条により、その損害を賠償する責任があるというべきである。
2 各被告らの主張等についての判断
(一) 被告安達、同富安について
右両被告は、適式の送達による呼出しを受けたのに、答弁書等の提出もないので、請求の原因事実を自白したものとみなす。
(二) 被告熊本について
被告熊本は、「顧客は納得していた。自分も詐欺ではないと信じていた。」との主張をするが、同被告は福岡支店において支店長として勤めるに至っており、前記のとおり、報酬の平均月額も極めて高額であって、この間、原告らと直接交渉をし、或るいは主たる業務活動をし、各営業部員らを叱咤、激励し、また顧客らとの交渉等については、営業部員の相談に乗り、さらに契約締結後の解約等の申入れ等に対しては、これを拒絶するなどの行為を示唆し、実行してきたと推認され、結局豊田商事が倒産に至るまでの間に各原告らの損害発生をやむなきに至らしめたと評価することができるから、原告らの被った後記の損害を賠償する責任がある。
(三) 被告久芳について
被告久芳は、「豊田商事の社員の甲斐が主となって原告藤川ツイと純金ファミリー契約を締結したのであり、自分は名義を貸したにすぎない。豊田商事は大きな会社であり、欺網の故意はなかった。現に自分は母親名義でも購入していた。」と主張し、<書証番号略>と被告久芳本人尋問の結果によれば、同被告の母親久芳孝子名義でも1.2キログラムの純金ファミリー契約が締結されていたことが認められるところである。
しかしながら、豊田商事では、勧誘の一方策として複数の営業部員らが担当することが行われていたことは前記のとおりである上、同被告が原告藤川ツイとの契約に関与したことは間違いがなく、また、親戚等の名義で純金ファミリー契約を締結し、このことを顧客に安心させる方策とすることは十分に考えられるところである上、同被告本人尋問の結果によれば、同被告も右契約証券の控えを所持し、これを顧客に示していたこと、同被告は昭和五九年二月ころに豊田商事に入社したが、そのころには同社内でも具体的な資金運用の事業は明確になっていなかったことが認められ、また、同被告が原告藤川ツイと契約を締結した昭和六〇年には、豊田商事の純金ファミリー契約商法に対する批判が集中し、その新聞報道等もされていたことは前記のとおりであるから、同被告の主張は到底これを採用することができない。
(四) その余の被告らについて
その余の被告らは、種々の主張をし、或いは適式な公示送達による呼出しを受けたのに、答弁書等も提出しないが、いずれの主張も採用することができず、また、その責任を認めるべきことは前記認定、判断のとおりである。なお、各被告の具体的関与を示す書証は、<書証番号略>のほか、別紙二「請求・認容金額一覧表」の「関連甲号証」欄記載のとおりである。
四損害
1 純金ファミリー契約による出捐について
前提二、1の各証拠によれば、原告らは、本件純金ファミリー契約の締結に当たり、被告らの求めるままにその有していた預貯金を取り崩すなどして交付していたこと、各原告に対応する勧誘等をした被告及び交付した金額は別紙二「請求・認容金額一覧表」の「被告」「被害金」各欄記載のとおりであることが認められる。
2 弁護士費用等について
原告らは、被告らの不法行為により本件訴訟提起のやむなきに至ったものであり、別紙二「請求・認容金額一覧表」の「弁護士報酬」欄記載のとおり被害金の一割の限度で本件と相当因果関係のある損害と認める。
五結論
以上のとおりであって、原告らの本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を仮執行の宣言について同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官牧弘二 裁判官高橋譲 裁判官家令和典は転任につき署名押印することができない。裁判長裁判官牧弘二)
別紙二
「請求・認容金額一覧表」 三月結審分
原告
契約締結日
被告名
被害金額
弁護士報酬
請求額・
認容額
関連甲号証
上野常雄
59.3.31~60.4.12
熊本洋明
2009505円
200950円
2210455円
25
上野容一
59.4.13~60.4.4
熊本洋明
5045955円
504595円
5550550円
25
岩井ふみ子
59.6.23~59.7.17
安東耿之介
5208165円
520816円
5728981円
13,26
佐野千代乃
58.11.22~60.4.25
安達直實
5462415円
546241円
6008656円
27
正木フジエ
59.4.4~59.10.18
熊本洋明
2780930円
278093円
3059023円
28
楠原隆子
59.4.20
安達直實
1237955円
123795円
1361750円
29
桜井シカ
59.12.19
熊本洋明
26870210円
2687021円
29557231円
19.30
三上順子
59.5.7~59.7.9
熊本洋明
2696965円
269696円
2966661円
17.31
井下高
58.8.4~59.8.2
富安龍郎
2706000円
270600円
2976600円
33.59
内山淑子
58.8.6~58.8.11
熊本洋明
6953060円
695306円
7648366円
35
梶本妙子
59.9.22~59.11.21
渡辺新一郎
3369030円
336903円
3705933円
24.36
倉永重雄
60.1.30
松田弘子
5472170円
547217円
6019387円
38
坂本清七
59.12.12~60.1.7
永野猛
5108000円
510800円
5618800円
39.61
﨑村キン
59.10.22
吉田正紀
牛島護
7615597円
761559円
8377156円
40の1.2
62
下川紫郎
60.4.9~60.4.19
安達直實
26733485円
2673348円
29406833円
41.63
生嶋須美子
59.3.29~60.4.11
安達直實
10621220円
1062122円
11683342円
42
進藤治兵衛
59.8.17~59.10.20
熊本洋明
12143035円
1214303円
(内金)11817025円
10.43
杉村トミ
60.4.2~60.4.9
松田弘子
7069740円
706974円
7776714円
44.64
田代堯子
59.10.24
長野栄三郎
1144500円
114450円
1258950円
45の1.2
田代ハツエ
59.9.25~59.11.30
長野栄三郎
4631620円
463162円
5094782円
46
寺敷政子
59.7.19~59.10.4
安東耿之介
19792865円
1979286円
21772151円
47
花田哲夫
59.8.20~59.10.27
鴨井敏晋
1691840円
169184円
1861024円
9.48
濱地トラ
58.7.22~59.8.4
富安龍郎
2154170円
215417円
(内金)2263987円
49
林トシ子
60.2.6~60.2.8
尾崎洋子
9987325円
998732円
10986057円
50
平石悦子
59.12.1
熊本洋明
3510000円
351000円
3861000円
51.66
藤川ツイ
60.5.29
久芳正祥
3324120円
332412円
3656532円
52
安武孝
60.5.16
熊本洋明
永野猛
6630000円
663000円
7293000円
54.67
和智フミ子
60.5.22~60.5.23
宮本茂美
6977940円
697794円
7675734円
56
長尾トシ子
60.4.16~60.5.9
尾崎洋子
14431935円
1443193円
15875126円
57
徳永カネ
59.11.30~60.3.22
河野恭信
11700000円
1170000円
12870000円
58
(内金)は合計額の一部請求しているもの。